仙台白百合の西村さんにお願いした鑑賞文、後篇です。
第16回俳句甲子園公式作品集を読む!(目次)へ
〈旭川東A・俳句批評鑑賞文〉仙台白百合学園・西村葉月
泣き虫の喉に落ちゆくゼリーかな 木村杏香
悲しいことがあって、ひとしきり泣いた後にとりあえずゼリーを食べてみる。ゼリーの甘さや冷たさにまた涙が出そうになる。ぽろぽろ泣きながらゼリーを嚥下する。喉元をすぎてゆく爽やかな食感に、すこしだけ慰められているような気がする、落ち「ゆく」に動きがあって臨場感がある。
夕焼けや鞄の底に定期券 木村杏香
定期券は使ったすぐあとは鞄の上や、内ポケットなどのすぐに取り出せるところにあるが、一日を終え帰るときは荷物の下に隠れてしまっている。家と学校(または勤め先)をつなぐ存在であるともいえる定期券。見えないところにだがしっかりとあって、日々の生活に寄り添っている。
団栗や歩幅の広い父と行く 木村杏香
団栗の並木道を、自分より歩幅の広い父と歩く。作者は、父親とふだんあまり出かけることがないのかもしれない。歩幅の広い父親に、言葉少なについていく作者の様子、そしてなにか話さなくてはと思いつつも言葉を探しあぐねる父親の様子、ぎこちなくも微笑ましい親子の様子が浮かぶ。
結末は既に決まって蓮の花 渡部琴絵
何の結末なのか。物語なのか、それとも自分がいま関わっている出来事なのか。いずれにしても、どこか諦観しているというか、上の方から俯瞰しているイメージと蓮の花の神秘性がよく響きあっている。
いいよともいやともいへず夕焼空 渡部琴絵
はっきりとした返事ができず、つい流されてしまう。だめだとわかってはいても、なかなか直すことができない。そんなちょっとした劣等感を感じながら歩く帰り道。だが、夕焼空を見るとなんとなく背中を押されるような気がする。もうちょっと頑張ってみようかな。そんな気持ちにもなる。
冬の星指をさしては名づけけり 渡部琴絵
頭上に広がる数多の星。どれも同じように見えるが、どれもひとつひとつ生まれていつか消えていく、物語のある星々だ。そんな星々にひとつひとつ名前をつける。存在を見出してあげるように。冷え冷えとした冬の空が輝きだすようなイメージ。
夏の岬寝返りひとつ風を待つ 矢崎雄也
夏の岬の解放感、涼しい風などが感じられるところで、作者は解放感のあまり寝転がっているのだろう。ただ、それだけに「風を待つ」としてしまうと、解放感が満点すぎて少しくどくなってしまうような気がする。
夕焼に見つからぬよう帰る道 矢崎雄也
夕焼の空は大きく、それから隠れることはできない。そんな夕焼からも見つかりたくない作者は、なにか後ろめたいことを抱えているのだろうか。
雨の月紙の匂いの中にいる 矢崎雄也
雨が降るので、部屋にいる。本を読んでいる、ではなく、紙の匂いの中にいる、という表現が、ひたすら本の世界に埋もれる感じ、閉鎖的な感じをよく出している。
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〈旭川東A・俳句批評鑑賞文〉仙台白百合学園・西村葉月
泣き虫の喉に落ちゆくゼリーかな 木村杏香
悲しいことがあって、ひとしきり泣いた後にとりあえずゼリーを食べてみる。ゼリーの甘さや冷たさにまた涙が出そうになる。ぽろぽろ泣きながらゼリーを嚥下する。喉元をすぎてゆく爽やかな食感に、すこしだけ慰められているような気がする、落ち「ゆく」に動きがあって臨場感がある。
夕焼けや鞄の底に定期券 木村杏香
定期券は使ったすぐあとは鞄の上や、内ポケットなどのすぐに取り出せるところにあるが、一日を終え帰るときは荷物の下に隠れてしまっている。家と学校(または勤め先)をつなぐ存在であるともいえる定期券。見えないところにだがしっかりとあって、日々の生活に寄り添っている。
団栗や歩幅の広い父と行く 木村杏香
団栗の並木道を、自分より歩幅の広い父と歩く。作者は、父親とふだんあまり出かけることがないのかもしれない。歩幅の広い父親に、言葉少なについていく作者の様子、そしてなにか話さなくてはと思いつつも言葉を探しあぐねる父親の様子、ぎこちなくも微笑ましい親子の様子が浮かぶ。
結末は既に決まって蓮の花 渡部琴絵
何の結末なのか。物語なのか、それとも自分がいま関わっている出来事なのか。いずれにしても、どこか諦観しているというか、上の方から俯瞰しているイメージと蓮の花の神秘性がよく響きあっている。
いいよともいやともいへず夕焼空 渡部琴絵
はっきりとした返事ができず、つい流されてしまう。だめだとわかってはいても、なかなか直すことができない。そんなちょっとした劣等感を感じながら歩く帰り道。だが、夕焼空を見るとなんとなく背中を押されるような気がする。もうちょっと頑張ってみようかな。そんな気持ちにもなる。
冬の星指をさしては名づけけり 渡部琴絵
頭上に広がる数多の星。どれも同じように見えるが、どれもひとつひとつ生まれていつか消えていく、物語のある星々だ。そんな星々にひとつひとつ名前をつける。存在を見出してあげるように。冷え冷えとした冬の空が輝きだすようなイメージ。
夏の岬寝返りひとつ風を待つ 矢崎雄也
夏の岬の解放感、涼しい風などが感じられるところで、作者は解放感のあまり寝転がっているのだろう。ただ、それだけに「風を待つ」としてしまうと、解放感が満点すぎて少しくどくなってしまうような気がする。
夕焼に見つからぬよう帰る道 矢崎雄也
夕焼の空は大きく、それから隠れることはできない。そんな夕焼からも見つかりたくない作者は、なにか後ろめたいことを抱えているのだろうか。
雨の月紙の匂いの中にいる 矢崎雄也
雨が降るので、部屋にいる。本を読んでいる、ではなく、紙の匂いの中にいる、という表現が、ひたすら本の世界に埋もれる感じ、閉鎖的な感じをよく出している。
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