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【リレー小説】 背中

十月三日、全道高等学校文芸研究大会に参加した部員でリレー小説を書きました。
・テーマ「恋」
・参加者~日野蒼夜、想真唯愛、霧島畔戸、小川朱棕、ありあ、里久(ちなみに参加者は全員女子です)
・一人持ち時間3分(合計2周)


(日野蒼夜)これは、私が高校生の頃の話。私は中学・高校とバスで通学していた。バス停のそばには桜が植えられていて、わたしはそれがとても好きだった。その頃の私の日課。それは“彼”のうしろ姿をながめることだ。
(想真唯愛)桜がはらはらちっている日。私は中学に向かうバスの中で彼と会った。会ったと言っても、見かけたという方が正しいけれど。すらりと高い背は私よりもいくつも年上であるように見えた。そうして何度かバスで会ううち、彼はいつも同じ席にすわることがわかった。
(霧島畔戸)前から3番目、右側の窓際の席。何かそこにあるというわけでもないし、特別なものでもない。ただ彼はそこに座ってブックカバーのかかった、本を読んでいた。

(小川朱棕)ある雨の日のこと。その日は珍しく車内が混みあっていて、つかまるところをさがすのに苦労していた。ちょうど彼の席のひじかけのところしかつかむところはなさそうだった。ぬれた手を少し気にしながら、少しだけきゅっとひじかけをにぎった。突然バスがバウンドした。そのはずみに彼のひじがわたしのゆびにふれた。
(ありあ)彼はちらりとわたしを見やったけど、ただそれだけだった。彼はまた青いブックカバーの本に目を戻してしまい、また日常に戻ってしまった。彼のひじとわたしの指がほんの一瞬だけ触れたという非日常。わたしはまた、中学校に通い、友達と話し、部活をする日々に戻る。わたしはもう、それだけでよかった。その日の夜、私は日記
(里久)に彼との思い出を閉じ込めた。しばらくたった日、いつもながめていた彼を見ることがなくなった。少しだけ触れたあの日からずいぶんたっていたのでそんなにショックではなかった。

(日野蒼夜)そして、彼を見なくなった日から、約二年半が過ぎ去った。今日は卒業式だ。バス停の桜が咲くのを見るのは、きっとこれが最後だろう。私の大学進学と共に、遠い町へと住居を移す。それは父の仕事や、祖母の体調のことがあって仕方のないことだった。
(想真唯愛)仕方がないことだとはいえ、桜を見るたびに思い出すのだ。バスの、前から3番目の右側の窓際の席を。そこに座って本を読む彼の姿を。そして、あのほんの一瞬、彼とふれあった指が、とてもあたたかかったということを。仲間と別れる、そんな卒業式。私はどうしてか彼もいっしょに思い出してしまう。
(霧島畔戸)どうせ別れるならあの人ともすっぱり別れてしまいたかった。そしたらこんなふうに思いだすこともないのに。仲間たちは写真をとっている。「ずっと友達だよ」「私のこと忘れないでね」なんて声がきこえる。わたしは一人バス停に向かった。そうだ、彼に別れをつげるんだ。こんな思いにバイバイするんだ。

(小川朱棕)もう一回だけ、あのバスに乗ろう。あの人に会っても、そ知らぬ顔をしよう。もう終わったのだ。何もかも。たかがそれだけなのに、どうしてここまで胸がつまっていたくなるの。バスに乗った。あの人はいたけれども、彼とは離れた前方の席へとまっすぐ進む。窓の景色が流れてゆく。桜も恋も思い出もいたみも全て流してゆく。
(ありあ)背中で彼の気配を感じていた。彼の後ろ姿も声もページをめくる音さえきこえなかった。もうそれでよいのだ。今、彼と別れることができれば、どんなに美しい最期だろう。物語の最後の1ページのように、私はこの気持ちも思い出もすべてふうじこめるのだ。いつも降りているバス停に近づいて、私は一度だけ彼をふり返った。彼は本から顔をあげていた。私は彼を見ていた。彼も私を見ていた。そこにはほかの乗客の声もバスのエンジン音もなかった。バスには、世界には私と彼しかいなかった。
(里久)バスはまだ止まっていない。…間に合うだろうか。ふとそんな思いがわいた。彼との思い出をきれいに終わらすことはできるだろうか。私は立ち上がる。そのまま彼のもとへ向かう。不思議だな、バスは動いているはずなのに、景色が止まって見える。彼も変わらず私を見てる。私は彼の指定席まで来た。前から3番目の窓ぎわの席。私はじっと彼を見つめて口を開く。
「ずっと見ていました」
そう言い切って私は急に怖くなった。何と返されるだろう。第一、彼は私のことを知らないはずだ。ぎゅっと目をつぶる。私の耳に届いたのは、少し低めの優しい声だった。
「……知ってたよ」
はっと目を開けると彼はもう本を読んでいた。プシューとバスのドアが開く音がする。どうやら着いたみたいだ。私は一度だけ礼をして、もう振り向かずにバスを降りた。去ってゆくバスを背中で感じながら、初めて彼の声を聞けたことに一筋涙がでてしまった。



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