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【鑑賞文】仙台白百合さんへ(堀下翔)パートワン

仙台白百合の西村さんと、お互いの部の句の鑑賞文交換。こちらも分割掲載です。残りは後日!



第16回俳句甲子園公式作品集を読む!(目次)へ

〈仙台白百合さんへ〉旭川東・堀下翔

母のような人になります夏怒涛 西村七海
詠者はきっと、母が大好きで、尊敬する人を問われたら迷いなく「母です!」と答えるような人だ。中七のあとに「!」マークがついているのではないか。「母のような人になります!」。ストレートで高らか。母に直接言うには気恥ずかしい叫びではあるが、夏の海の波音にまぎれさせたら、好きなだけ大声になれる。夏の海は、誰かに何かを叫ばせる性質を秘めている気がする。

夜の秋手紙破いてまた書いて 西村七海
手紙を破るのは、一見、感情的な行為のようだけれど、実は合理的なんだと思う。たくさん書いて、たくさん考え直して……いちいち破っておかないと、あとで間違えて、送らない筈だった方まで送ってしまう。「好きだ! すぐ会いたい!」なんて書いて、やっぱり恥ずかしいからやめて、「そのうちお食事でも……」ぐらいにしておいたのに、あーあ、うっかり「好きだ!」の方を……なーんてことに。静かな夏の夜、詠者はどれだけの思いを手紙にぶつけているのだろうか。

指揮棒の置き去られゐる晩夏光 西村七海
鷺沢萠の短編に「ティーンエイジ・サマー」(河出文庫『少年たちの終わらない夜』所収)というのがある。十九歳の主人公は、「十代最後の夏を見送る」ことを目的に、8月31日の夜、仲間と母校のプールに集まり、泳ぐ。西村さんの句を読んで、この小説を思い出した。この句の主人公たちも、なにか自分たちにとって大切な夏を見送ったのではないか。夏が終わるのは、妙にかなしい。誰もがそれぞれに、なんらかのかたちで、夏を見送ったことがある筈である。彼らは、みんなで音楽をすることによって。夏が終わって、彼らはどこか次のステップへと進んでいく。

セーラーの襟夕焼けに濡れてをり 西村七海
どきっとする。そもそも筆者はセーラー服を見慣れていない。旭川東は私服高校なのである。だからただでさえセーラー服にはどきっとするのに、まして夕焼けに濡れているだなんて、どきっの二乗である。光が濡れている。神野紗希の「光る水か濡れた光か燕か」の句を思い出す。こっちは、一瞬で通り過ぎてゆく光。ハッとする。西村句は、家につくまで、ずっと濡れている。ちょっといい気分になる。夕焼けに濡れているあいだのゆったりとした時間が愛おしい。

紫蘇を摘む指や最後の夏休み 野川奈桜
最後の夏休み。その最後の日、という感じさえする。彼氏とどこかへ行くわけでもなし、かといって宿題に追われているわけでもなし。あ、最後の夏休みということは、受験生か。けど、根を詰めもせず、紫蘇を摘む。落ち着いた人だ。夏休みが終わって、そのうち大人の世界に入っていかなければならない時期が近付いている。けれど詠者は、実は、すでに大人になっているのではないか。高校三年生。大人になるには、充分な歳である。終わっていく夏の中で、ふと自分の指を見つめると、そのほっそりとした指は、子どもの指のようではなく見えるのかもしれない。

東京の上に夕焼け鎮座して 野川奈桜
東京が好きだ。夏休みになると毎年、用事がある訳でもないのにひとりで東京に遊びに行った。できたばかりのスカイツリーにのぼったり、博物館めぐりをしたり、あちこちで買い物をしたり。どこへ行っても人がいっぱいだった。そのいっぱいの人々の誰もが自分のことを知らない、と思ったら変な気分だった。もちろん自分の街だって、すれ違う人なんて誰ひとり知らないのだけれど、東京の人の多さは、余計にそれを感じさせた。大勢の人がいて、その殆んどがお互いを知らない。東京の人たちの間に共有点はなさそうである。強いて一つ挙げるとしたら、同じ夕焼けを見ていることくらい。大きな東京に、大きな夕焼け。今日は夕焼けが綺麗だな、と、共通の感動が生まれたりして。そんな東京の人々を、夕焼けはひとしく見守っている。

切り絵から飛び出す団栗夕焼けて 野川奈桜
兼題「団栗」に対して、だから、その点はちょっとアレっ? と思った。けど、これ、「切り絵から飛び出す」って、すごくいい表現だと感じるんです。切り絵って、高じると、かなり精緻な図柄を作れる。が、この句で作っているのは、団栗。単純な形だから、すぐに、ポンってできる。まさに飛び出す感じ。言い得てるなあ……とホレボレした。で、団栗が飛び出して、その勢いの先にあるのが、夕焼け。ポンッと飛び出して、そのまま夕焼けに包まれる。光を浴びて、そのうち芽が出てくるかもしれない。



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